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東京高等裁判所 昭和46年(け)18号 決定

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件異議申立の趣意は、弁護人麓高明が差し出した異議申立書に記載してあるとおりであるから、これを引用する。所論は被告人が昭和四六年四月上旬頃起訴状記載の住居である○○○市○町○丁目○○○番地には居住しておらず、右場所には被告人の兄甲山野一夫婦が居住していたが、右甲山野夫婦も本件控訴趣意書差出期日通知書を受領したこともなければ、郵便送達報告書に受領印を押印したこともない。したがって、所定期間内に控訴趣意書の提出がないとして控訴棄却をした原決定は取り消すべきであると主張する。

本案事件記録中の昭和四六年四月六日付郵便送達報告書によれば、本件控訴趣意書差出期日通知書(提出最終日昭和四六年五月七日)および弁護人選任に関する通知書が同年四月六日○○○市○町○丁目△△番△△号において受送達者本人である被告人に交付され、甲山野という印が押されていることが明らかである。しかし、所論は右送達の効力を争うので、この点を検討する。

本案事件記録、本件記録を調査し、当審の事実取調の結果をも斟酌すると、被告人の本件起訴および原審判決言渡当時の住居は、○○○市○町○丁目△△番△△号(住居表示変更前は○○○市○町○丁目×××番地、起訴状および原判決中の○○○市○町○○○番地とあるのは誤である)であったこと、本件起訴状謄本、原審第一回公判期日召喚状はそれぞれ昭和四五年六月二〇日、同年七月一八日に右住居において被告人本人に送達されていること、被告人は原審公判審理中である同年七月頃居所を○○市□□○○○○○番地父甲山野太郎方に移したが、被告人は原審において住居変更の届出はしなかったばかりでなく、住民票の住所は昭和四三年一一月一日以降前記○○○市○町○丁目△△番△△号にあること、本件控訴趣意書差出期日通知書は昭和四六年四月六日被告人の住居である○○○市○町○丁目△△番△△号において甲山野一の妻甲山野ツキコ又は右甲山野一の経営する○○商事株式会社(同会社の事務所も同所にあった)の事務員が被告人の代人として郵便配達員から交付を受け、甲山野ツキコの印を押したが、同人らが右通知書を紛失したこと、甲山野ツキコは被告人の同居者であって事理を弁識するに足りる知能を具えていたことなどの諸事実が認められる。これらの事実に徴すれば、○○○市○町○丁目△△番△△号が被告人の住居であり、被告人に対し本件控訴趣意書差出期日通知書の送達をなすべき場所であることはいうまでもない。なるほど、前記郵便送達報告書の記載は杜撰であるとの非難を免れえないが、前記通知書は同居者である甲山野ツネコに送達されたものといわなければならない。かりに、事務員が受領したとしても、右甲山野ツキコが事務員に印鑑を渡して書類の受領権限を与えたものと認められるから、事務員は同居者の委任による使者というべく、その者が前記通知書を受領したときに送達は完了したと解すべきである。したがって、本件控訴趣意書差出期日通知書が同居者である甲山野ツキコ又は前記事務員に交付されたとき、その送達は適法かつ有効になされたものといわなければならない。その後、同人らが右通知書を紛失して受送達者である被告人に交付しなかったとしても、送達の効力に影響を及ぼさない。論旨は理由がない。

よって、本件異議申立は理由がないから、刑訴法四二八条三項、四二六条一項後段により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 関谷六郎 裁判官 寺内冬樹 中島卓児)

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